降誕物語
序章
12月25日はキリストの降誕日ではありませんが、一般的にこの日をクリスマスとしてキリストの誕生日としてお祝いしています。
では、いつ生まれたのかは明確ではありません。当時の戸籍調査は14年ごとに行われていたようです。エジプトで紀元20年から270年までに行われた戸籍調査についての資料が現存してると言われています。シリアでも同じような戸籍調査が行われたのであり、ユダヤはシリアの一地方になっていたのです。そこから、パレスチナでの戸籍調査も同じようにおこなわれていたであろうと推察されます。
14年ごとの調査が行われていたとすると、この箇所(ルカによる福音書2章)にある調査は紀元前8年に行われたことになり、イエスはその年に生まれた事になります(ウィリアム・バ―クレー)。
ガイウス・ヴィビウス・マクシムス、エジプト総督は次のように命じる。「戸籍調査の時が来たことを知ったなら、いかなる理由があるにせよ、自分の地区以外に滞在する者はみな、自分の家に帰るように強制しなければならない。それは、戸籍調査の規則を守らせると同時に、自分に割り当てられた土地の耕作に真面目に従事させるためである」。
ルカ福音書 ウィリアム・バークレー著/聖書注解シリーズ4 P.25
そこで、住民登録のためにヨセフとマリアが故郷に帰った、その夜の出来事が聖書にしるされているのです。沢山の人でごった返しの状態だったであろうと思われます。ヨセフとマリヤは住んでいたナザレという町から120kmもの距離を歩いてベツレヘムにやって来たと思われます。
マリヤは身重でしたので、この距離を移動するのは大変な事であったと想像します。
やっとのことで、ダビデの町ベツレヘムにたどり着いたのは良いのですが、既にどの宿もいっぱいであったのです。捜し尋ねた果てに、馬小屋なら空いてるのでと進めてくれる宿があり、その夜そこに宿をとる事になったのでした。
その夜のこと、マリヤは月が満ちて男の子を産みます。そして、布にくるんで飼い葉おけに寝かせたのです。おそらく、マリアが月が満ちる頃の旅になる事を想定して、準備をして故郷に旅立ったのだと思うのです。
それであったので、突然の出産にも対応が出来たのだと思わされます。
降誕物語に登場する人たち
ヨセフとマリヤそして飼い葉おけの中のみどり子
ヨセフとマリア、そして生まれたばかりのみどり子イエスが、初めに登場します。
人は誰でも人生で3回は主役になれると言われます。それは、誕生、結婚、葬儀です。しかし、主役を演じることが出来るのは結婚式だけです。普通は誕生したときの記憶はお覚えていません。ましてや葬儀の時は自分は亡くなっているのですから当然に何もできません。
イエス誕生の時、飼い葉おけの中のイエスも同じく物語の主人公ではありますが何も出来ないわけです。ただ、飼い葉おけの中にやすらかに眠っているみどり子としてのイエスなのです。
夜、野原で羊の番をする羊飼いたち
羊飼いたちは、この降誕物語の主役というべき存在感をもって生き生きと描かれ、その役割を充分に果たしています。「飼い葉おけの中のみどりご」に誕生の意味付けをする重要な働きをしました。
それは、マリヤが産んだみどり子イエスは普通の赤ん坊では無く、特別に選ばれた神の子メシヤなのだという神的権威づけをもたらしているのです。
ヨセフとマリヤが馬小屋で子どもを産んだと言うだけであれば、それは特別な事ではないわけです。誰でも月が満ちれば子どもを産むわけですから。しかし、そのごく普通の子どもが生まれる出来事を、普通ではない特別に選ばれた子であると理解できるように羊飼いたちが登場しているのです。
羊飼いたちは、聖書を読むあるいはこの降誕物語を聞く人々の役割を担っていると見ることも出来ます。
天使が突然に彼らに現れたのです。そして天使が羊飼いたちに語った、飼い葉おけに寝かされているみどり子についてのメッセージについて、事の真偽を確かめようではないかと、ベツレヘムに向かったのです。
この羊飼いの事の真偽を確かめる行動こそ、この物語を聞く人々の共通の思いであると感じます。その結末は最後の所に出てきます。
一人の天使と天に展開する天使たち
一人の天使が、羊飼いに使わされてきます。天的存在である天使の登場により、この物語が単なる一人の人の誕生物語では無い事を示しています。それは、ユダヤの人々にはメシヤがダビデの末から起きると語り伝えられていたからです。
その待望のメシヤの到来であることを、天使の到来という超自然的できごとによりこの物語に権威づけをしています。
そして、その天使が羊飼いに語った天からのメッセージは「飼い葉おけに寝ているみどりご」にたいする内容でした。飼い葉おけのみどり子こそがメシアであると、そしてこの「飼い葉おけのみどりご」こそがその「しるし」なのだと羊飼いに伝えます。
しるし
この誕生物語には1回だけ「しるし」という言葉が使われています。この「しるし」が示すものは「飼い葉おけに寝ておられるみどりご」であることは、ルカによる福音書の物語からはっきりと理解できます。
イエスが生まれた日、その前後に生まれた赤ちゃんはどれくらいいたのかは分かりませんが、他にもいた事は推し量ることが出来ます。しかしながら、生まれた赤ん坊を飼い葉おけに寝かせる事は普通はされないのではと思います。
しかし、イエスは飼い葉おけに寝かされたのです。このこと自体が他とは違い特別な状況にあったという事が出来ます。だからこそそれは「しるし」となることができたのだと考えられます。
その「しるし」は明確に他との違いがなって居ていたからこそ、羊飼いは天使の語ってくれた「飼い葉おけに寝ておらえるみどりご」を突き止める事ができたという事が出来ます。
天的存在(霊界の世界)である天使の語られた事が真実であるという事を、この現実の世界の「飼い葉おけに寝ておられるみどりご」という「しるし」によって、天使の語った霊的なみどりごイエスに対するメッセージが、確かであり、現実の証拠によって明らかとなったのです。
それでは降誕物語を是非お読みください。
ルカによる福音書
2:1 そのころ、全世界の住民登録をせよという勅令が、皇帝アウグストから出た。
2:2 これは、クレニオがシリヤの総督であったときの最初の住民登録であった。
2:3 それで、人々はみな、登録のために、それぞれ自分の町に向かって行った。
2:4 ヨセフもガリラヤの町ナザレから、ユダヤのベツレヘムというダビデの町へ上って行った。彼は、ダビデの家系であり血筋でもあったので、
2:5 身重になっているいいなずけの妻マリヤもいっしょに登録するためであった。
2:6 ところが、彼らがそこにいる間に、マリヤは月が満ちて、
2:7 男子の初子を産んだ。それで、布にくるんで、飼葉おけに寝かせた。宿屋には彼らのいる場所がなかったからである。
2:8 さて、この土地に、羊飼いたちが、野宿で夜番をしながら羊の群れを見守っていた。
2:9 すると、主の使いが彼らのところに来て、主の栄光が回りを照らしたので、彼らはひどく恐れた。
2:10 御使いは彼らに言った。「恐れることはありません。今、私はこの民全体のためのすばらしい喜びを知らせに来たのです。
2:11 きょうダビデの町で、あなたがたのために、救い主がお生まれになりました。この方こそ主キリストです。
2:12 あなたがたは、布にくるまって飼葉おけに寝ておられるみどりごを見つけます。これが、あなたがたのためのしるしです。」
2:13 すると、たちまち、その御使いといっしょに、多くの天の軍勢が現れて、神を賛美して言った。
2:14 「いと高き所に、栄光が、神にあるように。地の上に、平和が、御心にかなう人々にあるように。」
2:15 御使いたちが彼らを離れて天に帰ったとき、羊飼いたちは互いに話し合った。「さあ、ベツレヘムに行って、主が私たちに知らせてくださったこの出来事を見て来よう。」
2:16 そして急いで行って、マリヤとヨセフと、飼葉おけに寝ておられるみどりごとを捜し当てた。
2:17 それを見たとき、羊飼いたちは、この幼子について告げられたことを知らせた。
2:18 それを聞いた人たちはみな、羊飼いの話したことに驚いた。
2:19 しかしマリヤは、これらのことをすべて心に納めて、思いを巡らしていた。
2:20 羊飼いたちは、見聞きしたことが、全部御使いの話のとおりだったので、神をあがめ、賛美しながら帰って行った。
新約聖書ルカによる福音書2章1節~20節
飼い葉おけの中に
それでは物語風に降誕物語を語ります
昔々 あるところに ヨセフとマリアが住んでいました。或るとき、王様がおっしいました。「人々は誰でも住民登録をしなければいけない、生まれ故郷を離れて住んでいる人は、自分の生まれ故郷に帰って登録をしなさい」と命じられました。
そこで人々は、それぞれ自分の故郷に帰って、住民登録をすることになりました。ヨセフとマリアも生まれ故郷に帰る事になりました。そのころはガリラヤという町に住んでいましたので、生まれ故郷であるベツレヘムという町に帰る事になりました。身重のマリアを連れての旅は大変でした。
やっとの事でベツレヘムに着いたヨセフとマリアは宿を探しましたが、沢山の人でどこの宿もいっぱいでした。ところが、ある宿やの御主人が馬小屋が空いてるのでそこを使いなさいと親切にしてくれました。
そこで、ヨセフとマリアはその夜、馬小屋に泊まる事になりました。その夜、マリヤは月が満ちて男の赤ちゃんを産みました。そして、布にくるんで飼い葉おけに干し草をいれそこに寝かせました。
その頃、近くの野原では羊飼いたちが野外で羊の番をしていました。夜空は、キラキラ輝く満天の星空でした。そしてしんしんと寒さが増して来ます。羊飼いたちは交代で羊の番をし、火を焚いて寒さをしのいでいました。
するとそこに、突然一人の天使が現れました。 天使から光が差していたのでたちまち周りは明るくなりました。この突然の天使の到来に羊飼いたちはとても恐れました。
み使いは天からのメッセージを羊飼いに語りました。「恐れる事はありません。私は全ての人々に対する素晴らしい喜びの知らせを伝えに来ました。あなた方の為に、きょう、ダビデの町に救い主がお生まれになりました。その方こそ主なるキリストです。
あなたがたは、布にくるまって、飼い葉おけの中で眠っているみどりごを捜し当てます。それが、あなたたちのためのしるしです。」
すると、たちまち天の大軍勢がそのみ使いの所に現れて神を賛美して言った。「いと高きところでは神に栄光があるように、地には神の御心に適う人々に平安があるように」そして、み使いたちは天に帰っていきました。
羊飼いたちは、互いに言った。「さあ、ベツレヘムまで行って、天使が知らせて下さったその出来事を見てこよう」
そこで、羊飼いたちは急いでベツレヘムの町へと向かいました。そして、マリヤとヨセフと、飼い葉おけの中に寝かしてあるみどりごを見つけ出したのです。
羊飼いたちは飼い葉おけに寝かされているみどりごを見ると、幼子について天使から告げられたことをマリヤとヨセフそして人々に知らせました。そして、羊飼いたちは、聞いたり、見たりしたことがみんな天使の告げられた通りであったので、神を賛美しながら夜のしじまの中を、羊の待っている野原へと帰って行きましたとさ。これでおしまい。