山口薫著『公共貨幣』の要約で、この本の半分程度を扱っています、興味のある方は是非本書を購入して読んでみてください。山口 薫
NPO法人日本未来研究センター理事長
岐阜大学大学院工学研究科環境エネルギーシステム専攻非常勤講師
経済学博士(Ph.D.カルフォルニア大学バークレー校)
1946年兵庫県淡路島生まれ。関西学院大学経済学部卒。神戸大学大学院博士課程修了。大阪外国語大学(現大阪大学)、カルフォルニア州立大学ヘイワード校、サンフランシスコ大学、ハワイ大学で教鞭をとり、2004年より同志社大学大学院ビジネス研究科教授、2009年同大学院総合政策科学研究科博士課程教授を兼任(~2013年3月)世界未来研究学会(WFSF)フェロー、システムダイナミックス学会経済学チャプター元会長、同日本支部元理事。

『公共貨幣』


政府債務をゼロにする現代版シカゴプラン山口 薫

•2015年の今、日本国民は20年を超える経済不況下で苦しんでいる。経済学者が提案する財政・金融政策・金融の量的緩和策はことごとく失敗に終わり、末期的症状の患者さんを前に、何の処方箋も打ち出せない無力の医者のように、経済学者も無力感に襲われている。 • •本書の執筆目的は、経世済民という経済学の本来の意味を取り戻し、経済を再び活性化する処方箋があることを知ってもらうためである。 • •その処方箋とは何か。ずばり、貨幣改革である。体内の血液が汚れ血流が止まっているから病気になるので、そこに新たに健康な経済の血液(マネー)を注ぎ込み、よどみない血流を取り戻せば、経済は活性化される。 • •アダム・スミスから始まる過去250年にもわたる経済学は、マネー(貨幣)をその研究の対象としてこなかった。マネーがタブー視されてきたのである。本書は、貨幣に科学的にメスを入れて経済の処方箋を新たに提案するものである。

アメリカ大統領リンカーン、ケネディー

リンカーンは、南部の奴隷を解放するために闘ったのではないということ。北部と南部を分断して米国の経済力を弱体化させるというヨローッパの金融資本に対抗し、米国統一の為に闘ったということ、そしてその戦費を調達するために、金融資本による高利貸し融資を排して、グリーンバックス(Greenbacks)という政府紙幣の発行が1865年4月14日暗殺の引き金となったという事を知るに至った。 • •ケネディ大統領も当時、約100年前のリンカーンにならって政府貨幣を発行するために1963年6月4日に大統領令(Executive order 11110)を出した。紙幣は一か所違う所がある。それは、FEDERAL RESERVE NOTE(連邦準備銀行券)がUNITED STATES NOTE(合衆国貨幣)に替わっているという点である。そのケネディ大統領も、それから約半年後の11月22日にテキサス州ダラスで暗殺された。私が高校2年の時である。・・・ケネディ大統領亡きあとは、UNITED STATE NOTE(合衆国貨幣)は一度も使用される事は無かった。 • •もし、日本銀行が発行している千円札等にある「日本銀行券」と文字を、デザインは全くそのままにして「日本国貨幣」と書き替えれば、日本のリーダーも同様の運命に遭うのだろうか。貨幣に関する素朴な疑問が頭から離れなくなった。

日本銀行券



会計システムダイナミックス

•こうしたことを知ってか知らずか、大学に勤務の経済学者の多くは保身のために、現在でもこうしたイシュー(貨幣問題)に一切触れない。「貴方の経済学は偏っている」と経済学の講義を突如一方的に外され、2013年の春大学院教授の職を追われた。教え子の院生の一人はこう言ってくれた「日本のMr.リンカーンはアカデミックに暗殺された」 • •こうした状況にもかかわらず、本書で紹介する研究は、経済学のタブーに触れると言う「恐怖心」を打ち破ってくれた。その研究とは、会計システムダイナミックスという新しい分析手法を用いてマクロ経済モデルを構築し、無から創造される「貨幣(MONEY)の役割をシュミレーション分析をとおして科学的に解明するものである。 • •本書は、マクロ経済モデルそのものの紹介ではなく、そうしたかが科学的解明から得られた貨幣(MONEY)による新しい経済学処方箋の知見を、出来るだけ平易に一般読者の皆さんに紹介することを目的としている。その処方箋の実践を通じてこの研究が、現在長期的な経済不況下で苦しんでいる日本の民を救う契機になれば、著者として望外の喜びである。

第2章 お金とは何か

2.1 ことわざに見るお金

2.1.1 価値尺度情報 •お金とは何か、どこから来るのか、私たちの暮らしや経済にどのように影響を与えているのか。「地獄の沙汰も金次第」という諺があるように、たとえ地獄に落とされたとしても、お金さえあればすべてが解決できる。・・・これまでの経済学はお金を科学として分析してこなかった。 •お金とは何か、政府が発行する政府貨幣(コイン)1円、5円、10円、100円、500円がある。日本銀行が発行する日本銀行券1000円、2000円、5000円、10000円がある。これらのコインや紙幣は、商品の価値を尺度として体現する単なる「素材」である。・・・価値尺度情報である。

2.1.2 交換手段

●金のなる木 ●金は湧き物 ●金は浮き物 ●金は天下の回り物

                    Bさん

             Aさん

                           Cさん

                                     Dさん

                                図2.1金は天下の回り物

2.1.3 価値保蔵

•金は方行き   金は三欠くに溜まる(三とは義理、人情、交際)  •金と塵は積もるほど汚い    金持ちと灰吹きは溜まるほど汚い • •上記のことわざにあるようにお金を回さずにため込むものも出て来る。そうなると、たちまち血流は止まり病気となる。即ち、世の中にお金が回らなくなり、不況となる。図2.1のDさんである。即ち、庶民は直感的にアダム・スミスのような「神の見えざる手」による調和的な市場原理主義は機能しないと見ぬ言いていた。

2.1.4権力の支配

•では何故お金は貯め込まれるのか。お金があれば、日常生活に必要な財やサービスを売買できるのみではなく、また生産活動では生み出せない非経済財も、極端に言えば全ての物がお金で購入できるからである。 •金の切れ目が縁の切れ目  金の光は阿弥陀ほど 地獄の沙汰も金次第 •金が物言う  金で面を張る  金さえあれば飛ぶ鳥も落ちる 金に糸目をつけぬ

  金が敵の世の中・・・すなわち、お金とは庶民の交換手段を超えて、支配の手段。

1.お金は価値尺度として機能する。

2.お金は交換手段として機能する。

3.お金は価値の保蔵手段として機能する。

4.お金は権力の支配手段として機能する。

2.1.4権力の支配

•では何故お金は貯め込まれるのか。お金があれば、日常生活に必要な財やサービスを売買できるのみではなく、また生産活動では生み出せない非経済財も、極端に言えば全ての物がお金で購入できるからである。 •金の切れ目が縁の切れ目  金の光は阿弥陀ほど 地獄の沙汰も金次第 •金が物言う  金で面を張る  金さえあれば飛ぶ鳥も落ちる 金に糸目をつけぬ

  金が敵の世の中・・・すなわち、お金とは庶民の交換手段を超えて、支配の手段。

1.お金は価値尺度として機能する。

2.お金は交換手段として機能する。

3.お金は価値の保蔵手段として機能する。

4.お金は権力の支配手段として機能する。

   お金    経済的         経済       支配の      支配

          3機能      (財・サービス)    機能 

         図2.2貨幣の4つの機能

2.2 貨幣の定義

2.2.1 ストック・フロー図でみるお金の流れ

•お金が天下を回るという事は、その背後で必ず商品が逆方向に流れている。 • • •

          受取                     支払 • •

          販売                     購入

        図2.3貨幣のストック・フロー図

1.貨幣の単位、例えば円

2.貨幣の受取と商品の販売、及び貨幣支払と商品の購入といった逆方向への流入・流出フロー

3.流入・流出フローで増減する貨幣の保蔵(ストック)量

2.2.3アリストテレスの定義

•貨幣が機能面から定義できないとすれば、改めて「お金とは何か」といった問いの振り出しに戻って来る。本章では日本語からお金や貨幣を眺めることから始まったが、ここではお金を意味する英語のMoneyは一体どこから出てきたのかという観点から眺めてみる。ザーレンガによると、古代のギリシャでは、MoneyはNOMISMAと呼ばれていた。貨幣としての権限(Authority)は法律(Nomos)によってのみ与えられたからである。ギリシャの哲人アリストテレス(Aristotle,384-322BC

)は、貨幣を以下のように端的に定義した。

  そして貨幣はノミマス nomisma という名前を持つようになる。なぜならば、貨幣は自然にではなく法律 nomos によって存在するようになるからである。

 すなわち、貨幣は法律によって貨幣になるのであり、物質そのものが自然に有する物理的性質によって貨幣となるのではないと明言したのである。そして、いったん法律で「貨幣」が定められれば、それは価値の単位を決め、交換手段となり、価値保蔵手段となり、権力の支配手段となる。

アダムスミス以来、我々はまったく本末転倒した貨幣の概念を経済学によって洗脳されて来た。貨幣はまず、法律で制定されなければならない。このようにして制定された貨幣が「法貨(Legal Tender)」となる。すなわち、「貨幣とは法貨である」これが「お金とは何か」に対する最終解答である。

2・3法貨 Legal Tender

•それでは日本のお金、貨幣、法貨とは何か。どの法律で法貨を制定し、誰が発行しているのか。 • •現在国内で流通しているお金は1.政府貨幣(百円玉等の鋳貨、コイン)、2.日本銀行券(千円札等)及び、3.預金(銀行の預金口座にある信用のデジタル数字)の3種類である。 • •この3種類のお金で財やサービスの交換や支払決算が行われている。その中で、政府貨幣及び日銀券のみが手で触れることができる、いわゆる現金(Cash)と呼ばれるお金である。

2・3・1政府貨幣⇒制限付き法貨

•「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律(昭和62年6月1日法律第42号)」で以下のように定められている。

•第四条 貨幣の製造及び発行の権能は、政府に属する。・・・(財務大臣)

•第五条 貨幣の種類は、五百円、百円、五十円、十円、五円及び一円の六種類とする。・・・・「記念硬貨」として政令で定めれば、一万円等の政府貨幣も無制限に発行できる。

•第六条 貨幣の素材、品位、量目及び形式は、政令で定める。・・・このように現行法でも貨幣は、コイン、紙幣を問わず、政府が無制限に発行できる。但し、ここに落とし穴を用意した。政府は貨幣を無制限に発行できるが、政府貨幣が無制限に取引に通用(流通)できないように、以下のように制約した。

•第七条 貨幣は、額面価格の二十倍までに限り、法貨として通用する。・・・すなわち、最大額面の1万円貨幣を用いたとしても、政府貨幣では最大20万円までしか、通用させられないのである。これでは、企業等の大口支払いに貨幣は使えないということになる。すなわち、政府貨幣は「制限付き法貨」なのである。

2・3・2日本銀行券⇒無制限法貨

•そして、この制限付き法貨という欠陥を補うために日本銀行に日本銀行券という紙幣発行権を付与した。そのために、「貨幣(Money)」とは別に「通貨(Currency)」という概念を「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」で以下のように新たに定義した。ここがキーポイントである。

•第二条 通貨の額面価格の単位は円とし、その額面価格は一円の整数倍とする。三 第一項に規定する通貨とは、貨幣及び日本銀行法第四十六条第一項の規定により日本銀行が発行する銀行券をいう。・・・すなわち、以下のように定義した。通貨Currency=貨幣Money+銀行券Bank Notes

•ここでこの第二条三で定める「日本銀行法第四十六条」(平成9年6月18日に法律第89号として改正)を見てみよう

日本銀行法第四十六条

•第四十六条 日本銀行は、銀行券を発行する。

•二 前項の規定により日本銀行が発行する銀行券(以下「日本銀行券」という。)は、法貨として無制限に通用する。

•ここで初めて、「法貨」という用語が出て来る。すなわちこの法律で、紙切れに過ぎない日本銀行券を法貨(Legal Tender)として無制限に強制的に流通させるとした。元来は政府が発行する貨幣のみが法貨となるべきなのであるが、この日銀法によって新たに日本銀行券にも法貨なる地位が与えられ、「通貨=政府貨幣+日本銀行券」という本来の貨幣とは異なる拡大、変質概念が創り出されたのである。そして、日本銀行券の種類及び様式については、貨幣の種類及び素材と整合的になるように、以下のように規定した。

•第四十七条 日本銀行券の種類は、政令で定める。 

•二 日本銀行券の様式は、財務大臣が定め、これを公示する。

•日銀券という紙切れが新たに法貨とされ、誰もその受け取りを無制限に拒否できなくした。政府は貨幣(紙幣を含む)を無制限に発行できるのに、その通用範囲を自ら制限し、日本銀行という独立の別組織に政府貨幣とは別の銀行券の発行を許可し、それを法貨として無制限に通用させる権限を与えた。

2・3・3マネタリーべース=法貨

•こうして日本のお金(法貨)とは何かと問えば、上述した2つの貨幣に関する法律により「通貨=政府貨幣(実際には硬貨、コイン)+日本銀行券」であるということになる。

•そして、そのことが、現在の貨幣システムを混乱に陥れ、今日の不況、政府債務危機、所得格差等の経済混乱をもたらす根本原因を作った(したがって、この混乱の根本原因である2つの貨幣法を除去すれば、今日の経済的混乱が回避できる)。

•こうして政府や日銀によって製造・発行さあれ、流通に投入される通貨(法貨)は、その流通過程でやがて一部銀行預金として銀行に預けられ、それが日銀当座預金として、日本銀行に還流してくる。すなわち、通貨は現金(流通通貨)と日銀当座預金(通貨)に分かれることになる。

•枝分かれした通貨を再度合計したのがマネタリーベースと呼ばれる概念となる。今後、お金を考える際に非常に重要となる概念である。すなわち、マネタリーベースは通貨であり、日本における唯一の法貨であり、お金、貨幣である。換言すれば、日本国民はこのマネタリーベースの受け取りを誰も拒否できない。

2・3・4米国の法貨①

•ここで、米国における法貨について述べておく。米国憲法ではArticle Ⅰ.Section 8において議会は以下のように貨幣発行権を持つ(The Congress shall have power)と規定している。貨幣を発行し、その価値や外貨の価値を定め、その重さや寸法を決める権限。 

•勿論、“To coin”とは、金属コインの鋳造だけでなく、政府紙幣の印刷も含まれると一般的に解釈されており、よって貨幣の発行権は議会にあるとされている。ここで、政府ではなく、議会にあるという点に注目する必要がある。

•三権分立の制度のもとで、貨幣の発行権という新たな権力を、律法、行政、司法のいずれに与えるのかという事は、非常に重要な問題である。米国憲法では、これを議会に与えるとしているが、残念ながら日本国憲法には貨幣の発行権の規定はなく、便宜的、追加的に法律で「政府に属する」としているにすぎない。

•国家が国家として独立・存続するためには、その経済活動の規定が欠如している(させられている)。今日、憲法改正の議論が盛んであるが、もし改正が必要があるとすれば、それは貨幣発行権は国(それを代表する議会)にあるとする改正案であるべき

2・3・4米国の法貨②

•その米国においても、1913年に連邦準備制度(Federal Reserve Act)が制定されて連邦準備制度が米国の中央銀行となり、政府からは独立して貨幣を発行する権限、すなわち連邦準備紙幣Federal Reserve Noteの発行権限が与えられた。

•建国以来米国では、憲法で貨幣発行権は議会にあるとはしながらも、その発行権を民間の中央銀行が奪取するという血みどろの闘いが繰り返されてきた。第一合衆国銀行(1791~1811)、第二合衆国銀行(1816~1836)とそれぞれ20年間、貨幣発行権が民間銀行の手に渡ったが、アンドリュー・ジャクソン第7代米国大統領は、暗殺未遂(1835年)に遭いながらも、第二合衆国銀行の更新に拒否権を発動して貨幣発行権を民間銀行から勇敢に守った。しかるに、1913年ついにそれが、連邦準備制度という名称の民間銀行に乗っ取られ、その後100年以上も続いて現在に至っている。

•このような米国の動きに連動するかのようにその後、世界の多くの国で、政府とは独立の民間の中央銀行が貨幣を発行する権限を獲得してゆくようになった。すなわち、少額のコイン(鋳貨)のみ政府が発行し、銀行券は中央銀行が発行するようになった。日本の貨幣制度もこうした民間銀行が牛耳る世界統一の貨幣制度の一環として組み込まれている。

第3章日本銀行は必要か
3・1日本銀行は民間会社

•平成9年改正の「日本銀行法」

•第六条 日本銀行は、法人とする。

•日本銀行はジャスダック株式市場に、証券コード8301として登録の民間会社

•第八条 日本銀行の資本金は、政府及び政府以外の者からの出資による一億円とする。

  二 前項の日本銀行の資本金のうち政府からの出資の額は、五千五百万円を下まってはならない。

•第九条 日本銀行は、前条第一項の出資に対し、出資証券を発行する。

  二 前項の出資証券その他出資に関し必要な事項は、政令で定める。

日銀の出資証券所有者は出資はするが、経営に参加する権利も株主総会での議決権のようなものも与えられていない。もちろん、政府が出資者(株主)となっていても、政府からは独立した組織となる。

3・2日銀に出資するメリット

•第十条 出資者は、政令で定めるところにより、その持ち分を譲り渡し、又は質権の目的とすることができる。

•出資者に議決権は無くても、それ以外の出資(投資)メリットはある。会社支配が目的ではなく、キャピタルゲイン、すなわち安く買って高く売り、その差額を稼ぐ。

第五十三条 四 日本銀行は、財務大臣の許可を受けて、その出資者に対し、各事業年度の損益計算上の剰余金の配当をすることができる。ただし、払い込み出資金額に対する当該剰余金の配当の率は、年百分の五の割合を超えてはならない。

日銀の出資総額は1億円であるから、その5%の配当総額は年間500万円となる。であるので、キャピタルゲインという投資メリットもない。では、真の投資メリットは何かという事になる。それは、「拒否権」であるとなる。仮説ではあるが、「日銀出資者が33.4%を超えて証券を所有すれば、何らかの『拒否権』を発動できる」という事である。そして、この個人投資家は一度も公開されたことが無く、タブーとされている。貨幣の発行権と言う絶大な権限が与えられながら、政府から独立した民間会社であるとう不思議である。

3・3日銀のビジネスモデル
3・3・1日銀の収入源①

•日銀券発行権をもとにして得られる日銀の主な収入源は、以下の2つである。

  〇貨幣発行益(シニョレッジ、Seigniorage)

  〇利息

シニョール(Seignior)とは中世の封建領主や君主のことで、貨幣発行権を持つ彼らは、品位を落として貨幣を発行し、その差額の利益を得ていた。例えば、金貨100グラムを1枚50グラムに品位を落として、2枚流通させれば、金貨1枚分の貨幣発行益が得られる。

同様に、日銀も例えば1万円札の印刷原価を20円として、1千枚刷って日銀社員に年間給与1000万円支払えば、原価2万円で済む。この場合10,000円―20円=9,980円の発行益が得られる。

さらに、この1万円を1%の利息で政府に貸し出せば、日銀は毎年100円の利息が労せずに得られる。政府は、この利息を支払うために、税金を徴収して日銀に支払わなければならない。これら2つが、単純化した日銀のビジネスモデルである。

3・3・1日銀の収入源②

•実際には通貨発行益は政府にのみ与えられて、日銀には通貨発行益または日銀券発行益はない。日銀券はたとえ無から印刷して生み出したとしても、複式簿記の原則により日銀の貸借対照表には負債として計上しなければならず、日銀券という資産項目では計上できない。無から生み出した貨幣を資産として計上できるのは政府(封建領主、シニュール)だけである(この点は、後で公共貨幣を考える場合のキーポイントとなる)。

•日銀は日銀券の発行は法律で認可されていても、無制限に発行できるわけではなく、誰かが借りに来た場合のみ発行できる仕組みとなっている(逆に言えば、お金の借り手需要がある限り、日銀は日銀券を無制限に発行できる)。以上の考察により、日銀のビジネスモデルとしての主な収入源は利息のみとなる。

•では、誰がお金を借りに来るのか。政府と銀行である。

利付きで日銀券を発行しているという点がポイント。政府が税金を徴収して支払う利子が国債の利息であり、日銀が銀行に貸し出すときの金利が公定歩合である。現在の財政法第5条により日銀の政府への直接の貸し出し(国債引受)は禁止されているので、日銀は公開市場操作により、間接的に市場から国債を購入している。

3・3・1日銀の収入源③

•要点は、日銀のみ日銀券を発行して、主に政府に貸し出すことにより紙幣が発行されているということである。すなわち、政府が自ら保有する貨幣発行権をわざわざ放棄して、民間会社である日銀からお金を借り、その利息を国民から税金を徴収して民間会社の所有者に支払っている事になる。現行の債務貨幣システムは、このように日銀の所有者が国民から利息という不労所得を合法的に吸い上げるシステムとなっている。

3・3・2税金から利息を収奪

•3・4 不可解な剰余金処分

•3・4・1 剰余金(利益)隠し

•3・4・2 国債利息計算の丸投げ

•3・4・3 民間出資者への剰余配当

• 第五十三条5剰余金の残額は全て国庫に返納しなければならない。

•米国の連邦準備制度は、所得税から徴収した利息を一切国に還元していないと言われている。こうしたことから推測すれば、日本の中央銀行である日銀でも、民間の出資者が国庫返納金に「拒否権」を発動するとすれば、同様の事が行われていても不思議ではない。

•日本銀行には不可解な点、不都合な点が多くあるという事である。国の経済の血流となる貨幣が汚れていては、健全な経済社会が構築できるはずがない。そこで本章の結論として「日本銀行は必要か」と問われれば「現状のままではノー」ということになる。日銀を解散して国の金庫である「公共貨幣庫」へと組織替えをするのである。

第4章お金はなぜ無から創られるのか
4・1預金は法貨なのか

•4・1・1日銀のマネーストック定義

〇マネーストックM1=現金通貨+預金通貨

       現金通貨=貨幣流通高+銀行券発行高

       預金通貨=要求払預金(当座、普通、貯蓄、通知等)

〇マネーストックM3=M1+準通貨+CD(譲渡性預金)

       準通貨=定期預金+据置預金+定期積金+外貨預金

この中間にM2という概念がある。これはM3と基本的には同じで、預金の預入先が国内銀行(ゆうちょ銀行を除く)等に限定されている。

マネーストック

マネーストックM1 585.0兆円 (2014年8月現在)
政府貨幣     4.6 兆円 0.78%
日本銀行券  86.8兆円 14.8%
要求払預金 493.6兆円 84.4%
(日銀当座預金) (152.1兆円)

4・1・2預金は通貨(法貨)ではない

•要求払預金はお金(通貨)として機能はしているが、預金は通貨であり法貨であるという法的な規定はどこにもない。実際、元日銀総裁の白川方明氏は、民間銀行の預金について「決済手段として、また、価値の貯蔵手段として広く使われている」としてその現実の利用状況を認めながら、以下のように指摘している。

中央銀行通貨と比べると、発行体の倒産という信用リスクが存在するため、債務の支払いを受ける際に、銀行預金での受け取りを拒むことはできる。しかし、通常は、最終的に中央銀行通貨との引き換えが可能であるという安心感を背景に、民間銀行預金は通貨として機能している。

  すなわち、元日銀総裁は、預金は「通貨として機能している」とするが、誰もが受け取りを拒否できない法貨ではないと断言している。これはすごいことである。マネーストックの84.4%は法貨ではないのである。それに立脚した現在の貨幣制度は、法的に根拠のない、いつ機能停止になるかもわからない空中楼閣のようなものである。

4・1.3無から創られる預金

•それでは、なぜこうした粉らわしいマネーストックという概念が、経済学で必要となるのか。要求払預金がお金と同等の機能を持っているとみなされれば都合がいいからである。マネーストックはマネーであるとみなされれば、少なくとも銀行家には好都合となる。以下で見るように、銀行家は要求払預金を無から創り出せるからである。

・ 取り付け騒ぎ・・・銀行には預金者のお金は十分確保されていない。表4.1から15%しか現金預金は無い。では、こうした341兆円の預金額どこからきたのか。答えは、驚くなかれ、銀行が無から創り出したのである。(要求払預金493.6-日銀当座預金152.1=341.5)152兆円の当座預金を担保に、その3.2倍の493.6兆円の預金を無から創り出したのである。

無から預金を創るといっても、日銀券の発行と同様に、銀行は誰かがお金を借りに来ないと預金を勝手に信用創造できない。流動性預金522.4兆円に対応するのが、貸出498.7兆円である。銀行は企業等に貸出を行い、同時にその貸出額を企業等の当座預金口座にパソコンでデジタル数字を打ち込む作業を行い、無から預金を信用創造している。国債等証券416.0兆円は、定期性預金562.0兆円を運用して国債等を購入してる。

表4.2預金取扱機関貸借対照表
(日銀資金循環統計から作成)

預金取扱機関(2014年6月末 速報)

資産の部 (兆円) 負債の部 (兆円)
現金 8.4 流動性預金 522.4
日銀預け金 147.7 定期性預金 562.0
貸出 498.7 ・・・
国債等証券 416.0
・・・

4・2信用創造のメカニズム
4・2・1・教科書が教える部分準備銀行①

●再強調する。要求払預金は預金通貨ではないし、したがって法貨でもない、単なる銀行の信用貸出に過ぎない。こうした無からの信用創造を可能にするのが、部分準備銀行制度(Fractional Reserve Banking System)と呼ばれる「無からお金(という機能)を生む」仕組みである。この要求払預金によって、マネーストックの84.4%が賄われている。14.8%の日銀券については民間会社である日本銀行が銀行券を発行している。実に、マネーストックのうち99.2%は民間が発行しているという事になる。しかも、そうしたマネーストックは、民間が利息を付けて貸し出すことによって創り出された「お金」である。したがって、政府といえども、民間が創りだすお金を借りて回すしかない。利付き債務としてお金が創り出されるこうした銀行の貨幣システムの事を、債務貨幣システム(Debt Money System)と呼ぶ。

●債務貨幣システムの中核となる分部準備銀行制度のからくりを考察する。部分準備銀行制度とは、民間銀行が預金者から預かったお金を全て貸し出してしまうと、いざという時に預金引き出しに応じられなくなるから、預金額の一部を中央銀行(日本銀行)に準備預金として強制的に預けさせる制度のことである。この準備預金と預金との割合のことを必要準備率(Required Reserve Ration)という(支払い準備率、または法定準備率ともいわれる)。教科書でそう教えている。

4・2・1・教科書が教える
部分準備銀行②

●準備率10%と仮定

銀行が1.100万円の預金を受け取る。⇒10万円を日本銀行へ準備金として預金

    2.残り90万円⇒利息を付けて貸し出す。

    3.貸付金90万円の入金⇒9万円を日本銀行へ準備金として預金

    4.残り81万円⇒利息を付けて貸し出す。こうした貸し出しが波及的に行われてゆけば、民間銀行の預金(貸出)総額がやがて

1,000万円になり、最初にあずかった100万円を除いて、900万円の預金が新たに信用創造される。これがテキストで説明されている信用創造のメカニズムである。

●教科書では、銀行は単に預金者から預かったお金を再び貸し出して流通させるという資金の仲介業務をしているだけで、なにも無からお金を信用創造しているのではないといった錯覚を与える。

4・2・2銀行貸出が預金(信用)を創る①

●こうした、経済学者の教え方は100%間違っていることを、色々な経済学研究者が最近主張し始めた。それでは実際はどのようにして信用創造されているのかというと、①企業がお金を借りに来たら、まずそれに見合う余剰準預金の有無にかかわらず、一旦その金額を信用創造で貸す。勿論、利付きで。②具体的にはその企業の預金口座に貸出額をデジタル入力する。③貸出分に対応する法定準備金が不足していたら、後から他の銀行から借りて来て積み上げる。すなわち、「貸出⇒預金(信用)」という順序で信用創造が完了する。

●銀行窓口では実際には次のようにして預金が無から信用創造されている。①預かったお金100万円を全て日銀に準備金として預ける。②100万円の準備金に見合う預金総額は、準備率10%とすれば1000万円(100万円÷0.1)となる。すなわち、最初に預かった100万円を差し引いた900万円の預金総額(貸出)枠を銀行が得ることになる。(現在の準備率は2%前後であるので、実際には4900万円の貸出枠となる)

4・2・2銀行貸出が預金(信用)を創る②

●①ある企業が500万円の融資を求めて銀行窓口を訪れた。②銀行はその融資プロジェクトの収益性を査定し、担保、利息を取って貸し出す。③その結果、銀行の貸出資産は500万円増加し、同時に負債の部にこの企業の当座預金500万円を計上する。④貸出金利2%とすれば、この融資から銀行は毎年10万円の利子収入が経常収益として得られる。万一返済が滞れば、不動産等の融資担保を強制徴収できるので銀行にとって貸出リスクはほとんどない。このようにして、無から500万円の当座預金を創造し、毎年企業から労せずして10万円の利子収入をうけとる事ができるようになる。

●これが「無からお金(という機能)を生む」信用創造のエッセンスである。今後の議論で重要となるので、この簡単な信用創造のメカニズムを会計システムダイナミックスを用いて概念図で説明する。

<図は省略 書籍にて確認を>

4・2・3預金は誰のもの

•現金預金であれ、信用創造による借金預金であれ、銀行口座にある預金は預金者のものであると私たちは思い込んでいる。

•米国の偉大な貨幣数量経済学者のアーヴィング・フィッシャーはすでに1935年に以下のように指摘している。

現在、預金の所有についての混乱がある。お金が要求払預金口座に預金されると、預金者はそのお金は自分のものだと思っているが、法的には銀行のものである。預金者は銀行にお金を所有していない。預金者は民間会社である銀行の単なる債権者(Creditor)にすぎない。

それではフィッシャーが主張するように、預けたお金は銀行のものであるという法的根拠はあるのかということになるが、確かにある。預金はいかに引用するように「民法の消費寄託」にあたる。・・民法666条、587条、590条1項

 すなわち、現在の法的制度(民法)のもとでは、現金預金は銀行への消費寄託となり、銀行は預金者に断りなく自由に預金を運用でき、利息を稼げる。そうして運用しなければ、銀行は預金者に預金利息すら支払えなくなる。すなわち、普通預金であれ、定期預金であれ、預金者はその所有を断念して消費寄託し、資金運用を銀行に委ねている。

5章お金はなぜ支配の手段となるのか
5.1「金が金を儲ける」

l金が金を儲ける

その仕組みが、お金を貸し付けて利息を徴収するというシステムである。「金が金を儲ける」複利計算による利子支払いという金融システムである。

            返済                      利息

    返済額                                    利子率

            図5.1借金返済モデル図

5・2複利計算の驚異と恐怖
5・2・1指数的成長と倍増(半減)時間

•MITのスローン・経営大学院には、システムダイナミックスの創始者であるジェイ・フォレスター教授や世界第一人者のジョン・スターマン教授がいる。

ある日、スターマン先生は「コピー用紙を42回折り重ねると、どれくらいの高さになるか」と学生に質問した。・・・「東京タワーくらいかな」と直感的に思った。答えは何と「地球から月までの距離をはるかに超えている」のである。

•このように指数的成長モデルは、ダイナミックな動きをとらえる際の基本中の基本モデルとなるが、その増加の振る舞いは私たちの常識をはるかに超えている。こうした指数的成長モデルを金融システムにあてはめれば、お金持ちの預金は「驚異」的に増加し、貧乏人の借金は瞬く間に膨れ上がるアリ地獄のような「恐怖」が出現する。この指数的成長モデルは、実にきれいな性質を持っている。すなわち、預金や借金が倍増する時間は、常に一定であり、

●倍増(半減)時間=69年÷増加率(減少率)

    という簡単な公式で求められる。

セシウム137の半減期は30年と言われている。

69年÷30年=2.3% すなわちセシウム137は年2.3%ずつ減少。1%になるには200年かかる。

5・3権力の支配手段
5・3・1支配の質的構造変化

•民間の中央銀行と部分準備銀行制度に立脚する権力の支配手段の機能は、過去250年以上にわたり、さらに巧妙に進化してきた。

    金の貸し借り不和の基     金持ち喧嘩せず

   そうした権力の支配戦略の現代版が、「金が金を儲ける」システムによる「分割&支配(Divide and Control)による統治である。平和に暮らしている社会に、お金の力で反対派工作員(Controlled Opposition)を送り込んで対立するグループを意図的に作り、両者にお金を貸し付けて、対立をさらに激化させ、いずれのグループが負けても、債権者としては絶対に損をしないという巧妙なビジネスモデルである。

図5・4権力の支配手段図:
債務貨幣・株式所有システム

•                   利子・信用創造 • •                企業(株主)          配当 •                  • •支配       株式      メディア         広告費        お金 •(金融資本) • •

                      不動産         地代

5・4債務貨幣・株式所有システムの振る舞い

•債務貨幣・株式所有システムの構造は、経済問題、社会問題、環境問題、政治問題の4つの分野における諸問題を引き起こしている。

① 経済問題 バブル・不況、失業、債務危機、所得格差。

② 社会問題 人種差別、男女差別、宗教対立。

③ 環境問題 遺伝子組み替え・農業破壊、環境破壊、原発による放射能汚染等。

④ 政治問題 戦争、テロリズム、核開発、TPP, 安保法案、沖縄米軍基地問題等。

•システムダイナミックスの処方箋から言えることは、例えば経済問題を例にとると、経済不況や債務危機は、傷口を応急処置でふさぐような財政・金融政策と言った対症療法では解決できず、それらの問題を引き起こしている債務貨幣・株式所有システム構造にメスを入れなければならないということになる。反戦運動にエネルギーを費やして一時的に平和を勝ち取ったとしても、戦争を引き起こすシステム構造にメスを入れなければ、また支配勢力に戦争を仕掛けられることになり、反戦運動は徒労に終わる。そうなれば彼らの思うつぼである。経済的に安定した平和で差別のない持続可能な社会を創る為には、その大本にあるシステム構造の変革にエネルギーをつぎ込まなかければならない。それが、本書が提案する処方箋である。本書では、経済問題の解決処方箋を提案するが、そこでの解決方法は同時に社会・環境・政治分野における解決方法となりえる。

第6章 国の借金はなぜ増え続けるのか

6.1借金地獄の日本

6.1.1 ジャパンアズナンバーワンの難破

以下、興味のある方は本書にてあたって下さい。